公務員と転職

私は公務員を辞めてフリーターのようなニートのような生活をしていますが、公務員から民間企業に転職することを考えたことが無いわけではありません。というか、実際に何社か就職の面接を受けたことがあります。

しかし、新卒採用の時と同じで、全ての会社から不採用だったため、フリーランスの通訳案内士という職業を選びました。私はいつまでたっても、会社から必要とされない人間だったのです。もともと新卒ですら採用してもらえないのに、公務員を経由したことによって私はますます民間企業から必要無い人間になっていましたね。

公務員から民間企業に転職するには、大きなハンデが2つあります。1つは実務経験が無いとみなされること、もう1つは、公務員は使えないと思われていることです。

サラリーマンの仕事でよくあるのが、営業、経理、人事ですが、これらの転職市場は実務経験が重視されるうえに、公務員ではそれらの実務経験を身に付けることができません。

市役所の収入は税収だから営業がありません。市役所の会計は単式簿記だから経理の経験が役に立ちません。人事は公務員の人事でも多少は実務経験とみなされるかもしれません。

転職活動をしていた時から既にTOEICの点数は900点を超えていましたが、実務経験が無い奴はいくらTOEICの点数が高くても必要ないということが多いです。

実務経験が無いとみなされるので、第二新卒扱いになります。するとリクナビやマイナビに掲載されている応募可能な会社はブラック企業ばかりになります。わざわざブラック企業に転職する気にもならないなぁ…と思って、やる気を失ってしまいました。

実務経験が無くても、コンサルタント会社からの転職だったら、何となく仕事できそう、と思われて採用されるかもしれませんが、市役所職員にはそれがありません。世間の公務員への風当たりはとても強く、私は市民からよくバカだアホだと言われました。公務員など何も価値を生み出していないのに税金で飯を食べて社会に寄生している奴らというのが世間のイメージなため、わざわざそんな所で働いている人に高い人件費を払って転職させてやることはないのです。

また、公務員は毎日定時で帰って、残業をしないイメージがあります。日本の民間企業は、残業によって業務が成り立っている面があります。残業代が払われている残業ならまだしも、サービス残業によって成り立っている会社も多数あります。公務員から転職して来る人は、サービス残業をしなそうな人材なので、定時になったらサービス残業している同僚を差し置いて帰宅するかもしれません。そんな集団の和を乱す人を採用してはいけません。

先程述べたように公務員の実務経験は民間企業では全く評価されませんが、だったら彼らは何をやっているのかと言うと、公務員の特別な仕事をしていると思います。なので、公務員としての実務経験なら積んでいるわけです。公務員から公務員に転職するならば、即戦力とみなされるでしょう。

しかし、公務員の労働市場にはあまり流動性がありません。人が辞めないから、人を入れ替える必要が無いからです。最近は多少、公務員の中途採用も増えてきましたが…。

また、公務員の中途採用は、民間企業出身の人を採用するためにやります。長年公務員をやっているとあまり一生懸命働かない人が増えてくるので、ちょっと違ったタイプの人材が欲しいのです。そういう人は公務員としての実務経験がありませんが、何故か公務員の転職市場では実務経験はあまり大事だと見なされません。

すると、いくら実務経験があっても公務員から公務員に転職することも難しいことになります。そしてますます人が辞めないので人材の流動性が無くなります。

民間企業に転職されるにあたり全く役に立たなかった公務員としての実務経験ですが、実際は、市場原理にさらされた通訳案内士という仕事をするにあたって役に立つことを僕はたくさん学びました。

具体的には、人前で話をするのが上手くなったことと、実務で英語を使ったことです。

人前で話すと言うと、たいしたことないことのような気がしますが、これが上手くできない大人は多いですね。結婚式のスピーチで、会社の偉い人でも、全然話すのが上手くない人はたくさん居るということをみなさん経験的に知ると思います。幸い市役所の職員は、住民説明会で多数の人の前で話す機会がたくさんありました。通訳案内士は、人前で話すのが仕事ですから、日本語と英語の違いはあっても、この経験は本当に役に立ちました。

英語を使う機会も、多くは無いけどありました。税金を滞納している外国人に、

「ワタシニホンゴワカリマセン」

と言われた瞬間に英語で話して税金を払わせたり、実務で英語を使うことはたびたびあり、これは言うまでもなく通訳案内士としての仕事に役に立っています。

と、いうように私は市役所で、市場原理にさらされた仕事で使えることをたくさん学びました。転職で直接的に評価されなくても、市役所の仕事でも一生懸命やればたくさんのことが学べると思います。

市役所職員と学歴

昔、公務員として市役所で仕事を始めて、学歴なんて意味が無いな、と思いました。

私の職場には、中卒の職員が居ました。バイトや嘱託職員ではなく、正規職員でした。

給料などの待遇は、初任給こそ違いますが、我々大卒と同じ給料表が適用されるので、大卒者と同じ年齢になる頃には追いつきます。そして、40歳や50歳になると出世する人と出世しない人で差がつきますが、学歴によるハンデは全くありません。

私の上司は高卒で、早稲田大学を出た私は何かと批判されていました。その人は

「社会に出たら学歴なんて関係ない。」

とよく言っていました。

これは、今日も日本全国で、学歴に自信の無い人が言っていると思いますが、2つの点から、滑稽だな、と思ってしまいます。

1つ目は、学歴と言うのは社会に出る瞬間に役に立つものだから、社会に出た後は役に立たなくても何もおかしくないということです。たまたま市役所という職場は高卒の採用も多い場所なので入る時も学歴があまり役に立ちませんでしたが、一般的に、大企業に入るなら大卒の方がチャンスが多いでしょう。

2つ目は、学歴なんて関係ないとわざわざ発言すること自体、仕事の能力と学歴を自分で結びつけていることです。市役所の仕事は、微分積分をするわけでも、英文読解をするわけでもありません。電話や窓口で市民にサービスしたり、偉い人の機嫌を取って紙にハンコを押して貰うのが仕事なわけです。そんな科目は大学入試にはありません。学歴と仕事内容は、結びつきません。上司の発言は、野球が上手い人に対して

「あの人は野球が上手い割に仕事ができない。社会に出たら野球の上手さなんて関係ない」

と言っているに等しいです。でも「あの人は野球が上手いくせに仕事ができない」とは誰も言わないけど、「あの人は勉強できるくせに仕事ができない」とはよく言われます。不思議ですね。私は野球の方が勉強よりもよっぽど仕事と似てるな、と思ったのですが。

その上司にはしばらく嫌われていましたが後に何故か和解しました。お世話になったので感謝しています。

さて、この話が公務員を辞めたこととどう繋がるかと言うと、

「せっかく東京にある大学に出してもらったのに公務員を辞めたら親に申し訳ない」

と思う気持ちが薄れたということがあります。せっかく大学を出たけど、中卒でも変わらない仕事をしていたので、大学に行っていたことが市役所に入るためのコストだったと思わずに済んだのです。親もそれを分かっていてか、私が市役所を辞めるときに

「せっかく大学まで出してやったのに市役所を辞めるのか」

とは言われませんでした。まあ、私の親がそんなことを言うような嫌な人じゃなかったというわけでもあるんですが。自分自身でも、大学を出て新卒で就職したのにそれを放棄することを勿体ないと思いませんでした。これは市役所という場で学歴が全く役に立たなかったからです。

ちなみに田舎の市役所では高卒や中卒は、入る時も、また入ってからもハンデになりません。性別でも学歴でも出世を差別をしない、リベラルな職場です。

自由と安定はトレードオフ

私は公務員を辞めて通訳案内士という仕事をしています。

通訳案内士という仕事は、食えない仕事と、よく揶揄されます。通訳案内士資格の試験会場に行くと、60代ぐらいのリタイアした後の世代の人が多いことに気づきます。これで生計を立ててる人というのは少なくて、リタイア世代の道楽みたいな仕事なのではないかと、私自身思っていました。

研修に行った時も、最初は空港に見送りするだけの仕事からステップアップしていく、などと言われます。そして研修は自費で受けなければなりません。観光地を下見する時の旅費も自費です。デビューするまでにいったいどれだけお金を使うのか?と思いますよね。

しかし蓋を開けてみると、いきなりお客さん37名で4日間のバスツアーが回って来ました。ここぞとばかりに引き受けて、ピンチに陥りながらも何とかこなしました。

意外と、仕事あるんじゃね?なんて思っていました。

しかし4月の繁忙期が終わった後、私の仕事は途切れました。まあこんなものだろう、とは思ってみたものの、久しぶりに大学生みたいな生活をしていると、これで良いのか?という気がしないでもありません。

ですがこれは、公務員を辞めた時点で分かっていたこと。納得の結果であります。

私は自由を求めて公務員を辞めました。

そもそも、自由と安定というのはトレードオフの関係にあり、安定した仕事をしながら自由を得るというのは無理な話です。

公務員は、首にならないし給料が意外と高いという意味では、確かに安定していました。しかし、首にならないのと、30歳を超えた人の中途採用が少ないので一旦辞めると戻って来れないことが理由で、人材に流動性がありません。すると、辞めないことが前提の人生設計になってきます。公務員としての仕事を続けながらでは、ルールに縛られた、非常に限定的な自由しか得られません。まさしく私は政府の犬だったのです。

今、この先仕事がどれくらいあるのか分からないアウトローな道を歩いていますが、私は2か月ぐらい引きこもって英英辞典を暗記したり、日本全国放浪の旅をする自由もあります。これは安定と引き換えに手に入れた自由なわけです。

今はこの、せっかく手に入れた自由を満喫したいと思います。もちろん仕事が回って来たら受けますが。

公務員を辞めるきっかけになった本5冊

今回は私が公務員を辞めるきっかけになった本を紹介したいと思います。

どれも素晴らしい本ですが、私の人生を狂わせてしまった本ですから、取扱注意の本です!興味を持った方は心して読んでください。

①世界にひとつしかない「黄金の人生設計」 橘玲 著

市役所に就職して最初の夏に、私はこの本を読みました。思えば公務員を辞めたいと思った最初のきっかけになった本かもしれません。文字通り私の人生を狂わせてしまった本でしょう。

マイホーム、生命保険、株……我々日本人は、こういう大きなお金が動くシーンで、営業の人の言われるがままに商品を買わされています。4000万円借金してアメリカの株に投資する、と聞くと、みんな危険だから辞めなさいと言うけど、4000万円借金してマイホームを買うのは普通とされています。これはおかしな話で、実はどちらも莫大な金額を借金して投資しているという点では変わりません。と、いうようなお金に関するリテラシーを学べる本です。

この本を読んだことで、そもそも生きるためにいくらお金が必要なのか、など私は考えるようになりました。橘玲氏の本は他にも読みました。氏が投資について書いた本は、必読だと思います。

②ニートの歩き方 pha 著

この本の主張は、過労になるほど無理して仕事せず、ゆるく生きていくのも楽しいよ、今ならシェアハウスで住んだり、生活コストを抑える方法はたくさんあるからね、と言ったところです。著者の方は京大を出てサラリーマンになったけど、辞めてニートのような生活をしています。実際には仕事をしているし収入もそれなりにあるので完全なニートではないかもしれませんが、大筋では、仕事をあまりせずに生活費を抑えてゆるく生きているらしいです。

そもそも生きるためにいくら必要なのか?公務員を辞めるリスクとは何だろうか?と私は考えました。

答えは、自分ひとりだったら1か月10万円ぐらいあれば生きていける。公務員を辞めるリスクは、自分が死ぬことではなくて、安定した職を捨てるので、子供を養う財力を失うかもしれないこと、と私は結論づけました。

③未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる ちきりん 著

この本も名著でした。この本は、例えば40代ぐらいで全く別の仕事を始める、など、新しい働き方を提唱しています。細かい内容は忘れてしまいました。

著者のちきりんは、40代ぐらいでコンサルを退職し、文筆家になった人です。きっと、お金はたくさん持っていたし、気が向いたらまた就職できるスキルも持っていたと思います。そして、これは本当か分かりませんが、子供が居るわけではなさそうです。そのことは、割り引いて読む必要があると思います。子供を養っている人は、40歳ぐらいで収入が減る道に方向転換は、なかなかしにくいでしょう。

ただ、本当に自分がやりたいことは何か?を考えるうえで、「他にやりたい仕事はあるけど、子供のために今の収入が安定した仕事を辞められない」という考え方は、子供に少しでも良い生活をさせてやりたいというのがその人の本当にやりたいこと、であるので、やりたいことを実現していると思います。

④嫌われる勇気 岸見 一郎、 古賀 史健 著

これまた名著の中の名著です。人は究極的に自由で、好きに生きたら良いと、私は思うようになりました。例えば親との関係を気にして、自分がやりたいことをやれないと思っている人は、自分の選択を親のせいにしているだけで、本当は全て自分で選んだ人生である、というような話が延々書いてあります。だから好きに生きたら良い、というわけです。

この本に書いてあることは、話としては分かるんだけど、なかなか実践するのは難しいです。例えば会社で上司が、サービス残業を何となく強いてきた時に、

「時間なんで帰ります。残業する必要があるなら残業命令出してください。」

と、堂々と言えば良いわけです。頭で分かっていても、なかなか実行できないんじゃないかな…。この本に書いてあることは劇薬です。でも、過労の末に自殺してしまう人が居るようなこの国の人には、読んで欲しい本ですね。

⑤働く君に伝えたい「お金」の教養 出口治明 著

投資やマイホーム、保険などのお金の教養については、橘玲の本で私はしっかり学んでいたため、目新しい話はありませんでした。

それよりこの本では、自分に投資するという考え方を学びました。20代のうちは、債券とか株に投資するんじゃなくて、自分自身にこそ投資すべきだと、出口氏は仰るわけです。

今、日本では老人がたくさんお金を持っていて、若い人がお金を持っていなくて子供を育てられないことが問題になっています。でも、65歳の億万長者は、無一文の20歳の若さを羨むでしょう。若さは最大の資産で、それを有効活用するために、自分に投資をしなさいということです。これにはシビれましたね。まあ、株に投資するのも、若いうちに入れたお金は複利の効果が効いてよりたくさん増えるんですけどね。出口さんが言うのはそういうことではないです。

5冊の本を紹介しました。こういう本ばかり読んでいたので、私は、公務員、辞めても良いかな……と思うに至り、辞めてしまいました。どれも、小さいころから刷り込まれて来た洗脳を解く、名著です。

ただ、好きに生きろと言うのもまた、別の洗脳に過ぎません。人生に正解はありません。別の洗脳によって、洗脳を上書きしたということです。それでも私は、新しい洗脳を気に入っているので、そう生きていくというわけです。

気が向いたら、一冊ずつ、詳しく紹介していきたいと思います。今回の紹介で気になったら、ぜひ読んでみてください!

私が公務員になった理由

私は公務員を辞めて、通訳ガイドという仕事をしています。

安定した職業を捨てて、実質フリーターと変わらないような勤務形態で仕事をしているわけです。もったいないね、と人からよく言われます。

何で辞めてしまったかと言う話をしたいのですが、まずは、そもそも何で公務員になったのかという話をしようと思います。何故辞めたのかという話とも関連してきますからね。

私が就職活動をした年というのは、まさにあのリーマンショックが起きた年のことでした。

それまで3年ぐらいは好況が続いていたので、普通に就活してれば僕も大学の先輩達みたいにどこか就職できるだろうとタカをくくっていました。

現実は甘くなくて、私は受験した民間企業全てに、不採用でした。

自分は仕事をするに能わない人間なのかと、ひどく落ち込みましたね。ちなみに、受験した企業は、キリンビールとか資生堂とか、誰でも思い付きそうなメーカーを適当に受けてましたね。よく知れた会社が安心だと思ってましたからね。今思えばその会社選びの時点で間違ってました。

大学4年生の4月に民間企業から軒並み落ちた後に、公務員を目指すことにしました。もうそれ以上、民間企業の面接を受けたくなかったんでしょうね。地元の市役所の採用試験は7月だったので、約3ヶ月、本気で筆記試験の勉強をして受けようと思い立ったのです。

マークシートの試験はもともと得意だったので、私は難関と言われる公務員の筆記試験に通過しました。

そして面接も、補欠合格ながらなんとか繰り上がりで採用されました。

マジで自分はどこからも必要とされていないのかと落ちこんでいただけに、採用された時は凄く嬉しかったのを覚えています。

まあ、結局辞めちゃうんですけどね。